「海外の現場は、どうしてあんなに少ない人数で早く建てられるんだろう?」
施工管理として18年やってきて、海外の建設のやり方を知るほど、そう感じる場面が増えました。日本の現場は品質も安全も世界トップクラスです。ただ、こと「生産性」という一点では、海外に学べる工夫がたくさんあります。
そもそも建設業は、世界的に見ても生産性の伸びが鈍い産業です。だからこそ、それを打ち破ろうとしている海外の取り組みには、日本の現場が明日から使えるヒントが詰まっています。
この記事では、現役の施工管理として、海外の建設の生産性が高い理由を事実ベースで整理します。シンガポールや英国の具体的な仕組み、そして日本の現場でも真似できる工夫まで、できるだけ正確にお伝えします。
そもそも建設業の生産性は世界的に低い
まず前提から共有します。「海外はすごい」という話の前に、じつは建設業そのものが、世界中で生産性に苦しんでいる産業だという事実です。
マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが2017年に公表した報告書「Reinventing Construction」によると、過去20年間の建設業の労働生産性の伸びは年平均わずか約1%でした。世界経済全体の約2.8%、製造業の約3.6%と比べると、明らかに見劣りします。
さらに衝撃的なのは、建設業の生産性が約80年前とほとんど変わっていないという指摘です。農業や製造業が同じ期間に10倍以上も生産性を上げたのとは対照的です。
つまり、生産性という課題は日本だけのものではありません。世界共通の壁です。だからこそ、その壁をどう崩そうとしているかに、各国の工夫が表れます。
> 言いかえると、海外が優れているというより、「同じ壁に対して先に動き出した国がある」という見方が正確です。
海外の建設現場が生産性を高めている3つの工夫
では、生産性の高い国は具体的に何をしているのでしょうか。国によってやり方は違いますが、大きく3つの方向性に整理できます。
① オフサイト建設:工場でつくって現場で組む
いちばん大きいのが、オフサイト建設という考え方です。現場で一から組み立てるのではなく、工場で部材やユニットをつくり込み、現場では「組み立てるだけ」にする方法です。
たとえばシンガポールでは、PPVC(プレハブ・プレフィニッシュ・ボリューム式建設)という工法が普及しています。部屋そのものを箱状のユニットとして工場で仕上げ、現場ではレゴのように積み上げていくイメージです。
シンガポールの建設庁(BCA)によると、PPVCは工法や条件によって人手と工期を最大40%削減できるとされています。実際に、40階建て・505戸のマンションが、コンクリート製のユニットを積み上げて建てられた事例もあります。
現場作業を工場作業に置き換えれば、天候にも左右されにくく、品質も安定します。まさに製造業の発想を建設に持ち込んだ工夫です。
② 設計段階で「つくりやすさ」を作り込む(DfMA)
次に、オフサイト建設を支える設計思想がDfMA(製造と組立を前提とした設計)です。これは「どうつくるか」を、設計のいちばん最初から考えておく発想です。
日本の現場では、設計が決まってから「さて、どう施工しよう」と現場が知恵を絞る場面が少なくありません。一方で生産性の高い国は、設計の段階で標準化・ユニット化・組立のしやすさまで織り込んでおきます。
シンガポールは2010年に「建設生産性ロードマップ」を打ち出し、このDfMAを国の政策の柱に据えました。つまり、生産性を個々の現場任せにせず、国として仕組みで底上げしているのです。
③ デジタル情報の共有を義務化する(英国のBIM)
3つ目は、情報のデジタル化です。図面や部材の情報を一元管理し、関係者全員が同じデータを見ながら進める。その代表例がBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)です。
英国は2016年4月から、政府が発注する建設案件に対してBIM Level 2の活用を義務化しました。狙いは、情報のやり取りをデジタルに切り替えることで、公共工事のコストを15〜20%削減することでした。
ある調査では、BIMに1ポンド投資すると、労働生産性の面で5ポンド以上のリターンが得られたと報告されています。マッキンゼーも、建設業がもっとも「デジタル化が遅れた産業」のひとつだと指摘しており、逆に言えば、ここに大きな伸びしろがあるのです。
国別の代表的な取り組み(事実ベースで比較)
ここまでの内容を、国・地域ごとに整理します。会社名ではなく、公的な制度や政策の枠組みとして見ていきます。
| 国・地域 | 代表的な取り組み | 生産性への効果 |
|---|---|---|
| シンガポール | DfMA・PPVC(政策で推進) | 人手と工期を最大40%削減。2010年に生産性ロードマップを策定 |
| イギリス | 政府案件でBIM Level 2を義務化(2016年) | 公共工事のコスト15〜20%削減を目標に情報をデジタル化 |
| アメリカ | リーン建設・モジュール建設の広がり | 製造業の手法を応用し、ムダの削減と工期短縮を追求 |
| 北欧・ドイツ | プレハブ・木質モジュール住宅の普及 | 工場生産比率が高く、天候に左右されにくい安定施工 |
| 日本 | 現場のカイゼン・高い施工品質 | 品質と安全は世界水準。標準化・デジタル化に伸びしろ |
こうして並べると、生産性の高い国に共通するのは「現場の作業を、できるだけ工場と設計とデータに前倒しする」という発想だと分かります。
日本の現場でも真似できる工夫(現役18年の視点)
ここが本題です。大規模な政策や大型工事はすぐには真似できません。それでも、発想の部分なら、明日からの現場に取り入れられます。現役の視点で3つ挙げます。
1. 標準化・ユニット化できる部分を切り出す
まず、現場作業の中から「毎回ほぼ同じ」な部分を探します。ユニットバス、配管ユニット、先組み鉄筋など、事前に組んでおける要素は意外と多いものです。
そうした部分を先組み・地組みして現場に持ち込むだけでも、高所や狭所での作業時間は大きく減ります。オフサイト建設の考え方は、規模を小さくすれば個々の現場でも実践できます。
2. 「後工程」を計画段階から巻き込む
次に、施工計画を組む段階で、後工程の担当者を早めに巻き込むことです。DfMAの発想を、日本流に落とし込むイメージです。
「この納まりは組み立てにくい」「この順番だと手戻りする」。そうした声を、図面が固まる前に拾えれば、現場での調整やムダが減ります。上流で決めておくほど、下流の負担は軽くなります。
3. 情報を1か所に集める
そして、情報のデジタル化です。いきなり本格的なBIMを入れるのは難しくても、図面・写真・指示をクラウドで一元化するだけで、探す時間・伝える時間は確実に減ります。
さらに近年は、AIを使った書類作成や情報整理も現実的になってきました。海外がBIMで進んだ方向に、日本の現場も少しずつ近づけます。
> 情報共有やデジタル化は、大がかりな投資がなくても始められる領域です。まずは「探す・伝える・待つ」のムダを一つ減らすことから。
日本ならではの強みも忘れない
ここまで海外の工夫を紹介しましたが、大切なことがあります。日本の現場は、品質と安全において世界トップクラスだという点です。
きめ細かい納まり、丁寧な仕上げ、職人同士の連携。これらは数字に表れにくいものの、日本の建設が長年培ってきた確かな強みです。生産性を追うあまり、この土台を崩しては本末転倒です。
つまり目指すべきは、日本の「現場力」に、海外の「仕組み化・標準化・デジタル化」を足すことです。どちらか一方ではなく、両方をいいとこ取りする姿勢が現実的だと感じます。
日本と海外、それぞれの強み
- 日本の強み:高い施工品質・安全文化・現場のきめ細かい対応力
- 海外の強み:オフサイト建設・設計段階での標準化・情報のデジタル化
- 理想:日本の「現場力」に、海外の「仕組み化」を足すこと
よくある質問(FAQ)
Q. 海外の建設現場は日本より生産性が高いのですか?
統計上、シンガポールや英国など、政策として生産性向上に取り組む国は成果を上げています。ただし建設業は世界的に生産性の伸びが鈍く、日本も品質・安全では世界水準です。「発想と仕組みで先に動いた国がある」と捉えるのが正確です。
Q. オフサイト建設やPPVCは日本でもできますか?
規模を工夫すれば可能です。日本でもユニットバスや先組み鉄筋など、部分的な工場生産・先組みは広く使われています。海外の大規模なユニット工法をそのまま真似るのは難しくても、標準化・先組みという発想は個々の現場でも取り入れられます。
Q. 現場ですぐに真似できる工夫は何ですか?
標準化できる作業を先組みでまとめること、施工計画の段階で後工程の意見を取り入れること、図面や指示をクラウドで一元化することの3つです。いずれも大きな投資なしで、探す・伝える・待つムダを減らせます。
まとめ
最後に、この記事の要点を整理します。
この記事のまとめ
- 建設業の生産性は世界的に低い。伸びは年約1%で製造業(約3.6%)に劣後
- 生産性の高い国の工夫=オフサイト建設・設計での標準化(DfMA)・情報のデジタル化(BIM)
- シンガポールはPPVCで人手と工期を最大40%削減、英国は2016年にBIMを義務化
- 日本でも真似できる=先組み・後工程の巻き込み・情報のクラウド一元化
- 日本の強みは品質と安全。海外の「仕組み化」を足すのが理想
海外の建設の生産性を知ることは、日本のやり方を否定するためではありません。世界の工夫を知ったうえで、日本の優れた現場力に足りないピースを補う。それが、無理なく生産性を上げる近道です。
現役で現場に立つ一人として、これからも国内外の良い仕組みを取り入れ、持続可能で働きやすい建設現場を目指していきたいと思います。
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